投資先事例: 光コム

福沢博志 代表取締役社長 八木貴郎 取締役COO

公開日:2019.04.22

独自の高速形状測定技術で完全自動化工場の実現を目指す

株式会社光コムは、複数の周波数からなる特殊なレーザー技術「光コム」の実用化開発を進めています。このレーザーによって、自動車のエンジン表面など複雑な形状を非接触かつ高精度・高速に測定できるようになります。さらに、インダストリー4.0※の中核となるスマート工場の実現に向けて、AIやロボットと組み合わせて新しいソリューション事業の展開を開始しました。また、INCJ主催の技術展示会がきっかけで大手自動車メーカーからの受注につながり、事業が加速しています。光コムの技術や将来について、INCJ担当者を交えてお話を伺いました。
※IoTやAIを用いることにより製造業のデジタル化・コンピューター化を目指すコンセプト

ノーベル賞受賞技術を実用化へ

株式会社光コムは東京工業大学発のベンチャー企業で、会長の興梠元伸氏が助手時代から開発を進めてきた「光周波数comb(略称「光コム」、光の櫛の意)」技術の実用化を目指して2002年に設立しました。このレーザー技術は、1つのレーザーモジュールから一定間隔に並んだ光線を発生させる画期的な技術で、2005年には米国とドイツの物理学者がこの技術の原理についてノーベル物理学賞を受賞しています。当社では、技術の実用化に主眼を置いて開発を進めてきました。

当初、世の中のニーズに合った応用製品を開発できず事業化は困難を極めましたが、2012年にようやく光コム技術を利用した形状測定器を世に出すことができました。信号処理の高速化に努めた渾身の製品でしたが、予想したほどの反響はなく、なんとか数社に納入できるレベル。しかし、2016年になってVCから資金を調達でき、続けて翌年にはINCJからの投資も実現しました。これにより測定器の改良が進み、現在は国内ほぼすべての完成車メーカーで導入されるようになりました。

スマート工場の「目」の役割を果たす

当社が狙った市場は、自動検査を実現できるスマート工場です。「インダストリー4.0」の中核を担うスマート工場の実現に向けて、高度な設計と製造を可能にする自動化技術が開発されていますが、検査技術だけは自動化に遅れをとってきました。

光コム技術を使ったレーザーは、その名の由来である光の「櫛」に例えられる等間隔の周波数に複数のレーザー光が並ぶため、「光のものさし」として活用することができます。当社はこの点に着目し、形状測定器を開発しました。光コム技術を使った測定器は1秒間に50万点という高速測定が可能なため、平面スキャンによって非接触・高速で立体の形状を測定できます。高速化によって製品の全数検査が可能になり、高い品質を確保することができるようになります。

インダストリー4.0には、「目」「手」「頭」の3つの自動化が必要と言われています。当社の測定器は、その「目」の役割を担います。そして、測定器を取り付けるロボットアームが「手」、さらにAIが「頭」の役割を果たします。まずは「手を備えた目」から製品をリリースし、最終的にはこれらすべての要素を揃えて、ソリューションを開発・構築・提供することで、産業の現場を大きく変革していくことに貢献したいと考えています。

大手自動車向け技術展示会がターニングポイントに

~以下、光コムの福沢社長、八木COO、INCJの投資担当者による対談~

光コム 福沢社長:当初は多くの投資先を訪問して出資を依頼しましたが、技術面で理解が得られずに次々と断られていました。そんな中で出会ったINCJは、幅広い産業案件を手掛けているために質問の専門性が高く、より現場に近い相談ができました。INCJの担当者はあらゆる産業の現場に足を運んでいるので、投資後も新しく得たヒントを共有してくれており、とても参考になっています。

INCJ:わたしたちは、事業リスクや技術リスクはベンチャー投資にあって当たり前だと考えています。それを解消すれば企業の優位性になることを知っているからです。光コムの顧客である事業会社から、「光コムの測定器を導入することで、これまで不可能だったことを可能にした」という意見を聞いたときに、光コムの将来性を強く感じました。

光コム 八木COO: INCJが主催した「ベンチャー企業展示会」に参加したことが、大きなターニングポイントになりました。この展示会は、INCJの投資先のベンチャー企業7社が参加し、投資先の技術を日産自動車の技術者に紹介するもので、わたしたちはその中の1社として参加しました。展示会では、日産自動車のあらゆる役職の方にブースに訪問いただきました。自動車メーカーから受注を得るのは大変ハードルが高いことですが、本件を機に、その後の引き合いにつながりました。

光コム 福沢社長:もう一つ展示会で得られたことは、光コム技術をロボットと組み合わせるという新しいアイデアです。展示会の隣のブースにINCJが出資する「リンクウィズ」というロボットの三次元制御ソフトウェアを開発する企業のブースがあり、多くの参加者がダイナミックに動くロボットに惹かれている様子が見てとれました。この光景が、スマート工場において「目」である光コムの測定器と「手」であるロボットアームを組み合わせる、新たなソリューションの発想につながりました。

INCJ:その後、INCJは実際に光コムとリンクウィズを引き合わせ、光コム技術とロボットアームの融合による新たな可能性が議論されました。INCJのポートフォリオの中でシナジー効果を考えるのも、わたしたちが投資先企業の事業を加速させる支援業務の一つといえます。

ものづくりの完全自動化でインダストリー4.0の実現を目指す

光コム 福沢社長:ものづくりの完全自動化を目指すことは、少子高齢化が進むことで労働者不足に陥るという日本が抱える社会課題の解決にも貢献できると考えています。

光コム 八木COO:この先、インダストリー4.0を実現していく中で、「目」と「手」のシナジーによって一歩先に進むことができました。次は「頭」であるAIとの融合を念頭に置いています。さまざまなパートナーと組んで新たなビジネスモデルを構築し、世界に展開していきたいと思っています。

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